2011/09/29

ラジオの続き

3件目の小売店に入ると、広くはない店内に、
程良い程度の電化製品が、ゆったりと並んでいた。
ところが、お店の人がなかなか出てこない。

しょうがないので、少し奥に進んで「ごめんください」と言ってみた。
その時に『心』と、毛筆でかかれた墨の字が見えた。
入口からは見えない、店主の椅子からはよく見えそうな位置だった。
『心』の横に、「松下幸之助」と書いてあった。
その瞬間に、父だか母だかが、以前に、
電化製品は、松下電器なら信頼できるから、松下電器で買う、
と言っていたことを思い出した。
東京に来て、量販店の電化製品の安さに驚いて、
高いお金を出して、田舎の地元の電気屋で電製品を買っている両親に、
なんでそんなに、もったいないことをするのだろうと思っていたことも、
ついでに、一緒に思い出したりしていた。

ようやく、人の良さそうな中年の男性が出てきて、回想が止まった。
お店には、いくつか持ち運べるラジオがあった。
1件目で説明したことと、同じことを説明した。

店頭に並んでいるラジオを指して、
「安いですね」と話しかけてみると、
「安いけど、電池式で小さいのはアンテナが無くて、室内だと音が悪い、
コードがついているものは、コードがアンテナ代わりになるから、
アンテナがついてなくても、音がいい。
室内でなら、しっかりアンテナがついたものがいいな・・・」
と半分ひとり言のような説明をしながら、
1件目のお店の時に見たカタログを出していた。

そして、1件目と全く同じ品を指して、
「これくらいしか、ないね」と言う。
いくらか聞くと計算してくれて、「6,500円はするね」
と無造作に言って、カタログを閉じてしまった。
この店主は、商売をする気がないのかな?と思った。

そこまでで、ラジオの事より『心』の書の方が気になっていたので、
「そこの書は、松下幸之助の直筆ですか?」と聞いてみた。
そうしたら店主は、急にぱっと笑顔になって、
「そうですよ。まだ生きてらっしゃる頃に書かれたものなんですよ。
今の政治家の~はね、松下幸之助が始めた塾の一期生で・・・・・」
と話が続く。
興味本位に話題を出してしまったんじゃないかと思って、
ちょっと後ろめたく思いながら聞いた。

「松下幸之助の言葉もいいんですよ。今年のカレンダー、
まだ余ってますから、良かったら一つ持っていきます?
松下幸之助の言葉が書いてあるんですよ。」

という説明を聞くか聞かないかのうちに、
私はもう、カレンダーを手に持っていた。

「毎年、カレンダーが出るから、もし気に行ったら、
来年のが出たら差し上げますよ。」
という店主の説明を聞きながら、私はここに何をしに来たんだっけ?
どうしてカレンダーを手に持っているんだっけ?と不思議に思いながら、
ちょっと得したような気分になっていた。

そうそう、それで、ラジオ。
同じものが4,200円で手に入る、
親切に調べてくれた店に注文に行こうか、
職人気質の6,500円の店に行って、店主とお近づきになろうか、
未だに決められずに、1週間が経とうとしている。

今度、母に会いに行った時に、つまみの取れたラジオに、
電池を入れて持って行って、どっちで買うといいと思う?
って聞いてみる、ってのもおもしろいかもな、と思った。
カレンダーがほしい、って言われたりして?

そういうわけで、今家に、松下幸之助『勇気』という表紙の
2011年のカレンダーが、無造作にかかっている。

1 件のコメント:

  1. 「ラジオ」今、ラジオに親しんでいる人は、どれ位いるのだろうか。

    私が子供の頃は、1台のラジオを一家がそろって耳を傾けたものである。
    真空管式で、聞こえなくなると、ラジオ本体の木箱をひっぱたたくと、聞こえるようになるすぐれものでした。
    現在は、カーラジオが一番、身近な存在だろうか。

    「クロネコクロコの足あと」を読んでいると、何か引き込まれる感じがする。

    書いてみたいことは、数多くあるのですが、コメントと言うより、自分のブログになりそうで、字数を押さえています。

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