転職して1週間がたった。
転職するたびに思いだす話がある。
10年くらい前の話。
30年もホテルで料理を作っていて、料理長までしていた人が、
体調を崩して退職して、50人くらいの昼食を作る仕事をすることになり、
一緒に調理の仕事をしながらサポートする、
という職に就いたことがあった。
30歳も年下の、しかも、料理をするのがきらいで苦手で不得意な私が。
ジョブコーチってのは、時として奇妙な制度だなと思う。
という感想は今はおいといて。
私は、この人と仕事ができたことが、今でも誰かと一緒に仕事をする時に、
特にイラッとした時に心掛けている、大切な基準になっている。
そうは、思えない時も多いのだけど。。。
当時、転職したばかりで緊張していて、
しかも慣れない厨房で働かなきゃならなくなった私に、
その人は、大量の食事を作る方法を、一つ一つ丁寧に教えてくれた。
初日、50人分のみそ汁を作った時のこと。
お湯を沸かしている間に、大根をこういう風に切って、
お湯が湧いたらダシと、青ネギの青い部分を入れてうまみを出す。
大根を入れて煮立ったら、最後にネギの白い所をいれて、
青いねぎは出して、味噌で味つけする。
その人は、私にも教えながら、テキパキとおかずも作りながら、
もたもたする私に、「お、いいね」「そうそう」「はい、今入れて」
短時間で手早く仕上げて、美味しい状態で出せるように、
声をかけてくれて、手は出さず、ダシの量から、
最後の味付けの味噌の量まで、私に任せてくれた。
ドキドキしたけど、楽しかった。
味見して、もういいだろうと思って出来上がったみそ汁は、
実際に食べてみたら、味が薄かった。
あんなに丁寧に教えてくれたのに、上手く作れなかったと思って、
がっかりした私は、「味が薄かったです、すみません」と謝った。
次回からは気をつけてと怒られるんじゃないか、と思った瞬間、
返ってきた返事は、
「少し味噌が足りなかったね。大根の切り方は、すごくいいよ。」
よし、明日も、みそ汁作るの、がんばろうと思った。
それから約1か月、週に2~3回、一緒に厨房で働いた。
みそ汁作りに慣れてきたら、今度は、ムニエルの魚の下ごしらえ、
付け合わせの味付け、盛り付けなど、少しずつ出来ることが増えて、
気が付かない間に、テキパキと動けるようになっていた。
怒られたことは一度もなく、むしろ、私は料理が得意なんじゃないか、
と勘違いするくらい、誉めてくれた。
ある時、その人に、
「私は出来ない事も多いのに、
どうしていつも私を誉めてくれるんですか?」
と、聞いてみた。
そうしたら、返ってきた返事は、
『私は、人の悪い所は探さなくてもすぐに見つかってしまう。
悪い所を10個見つけるのは簡単だけど、
人の良い所を3つ見つけるのは難しい。
だから、人のいい所を探して伝えるようにしてる。
いい所は、すぐに見えなくなっちゃうからね。』
この人が上司だったら、ずっと料理人として働ける、と思った。
今でも、決して、料理が好きというわけではないのだけど。
非難されたとか、怒られたという感覚も持たずに仕事を覚えられる。
言葉は少なくても、的確にすることを伝えてくれて、
自分で、次はこうしようと思えるような声をかけてくれて、
少しずつ仕事を身につけていくのを見守ってくれる上司でもあり、
ずっと一緒に働きたいと思える同僚。
それは、努力し続けている結果だということ。
そんな人が世の中にいるんだと、思って感動した。
その人とは、それから会うたびに、いろんな話をした。
仕事で夕食作りをしなければならない時には、
メニューや、調理方法や、買い物など、
相談にのってくれて、作りやすい料理のレシピもくれた。
父と娘のような感覚だった。
私は「スタッフ」だったので給料をもらえ、
その人は「利用者」だったので、お金を払って来ていた。
給料泥棒をしているようで心苦しく感じて仕事を辞めたのも、
当然な流れのような気がするし、
辞めないで働き続けていたら、もっと楽しいこともあったかもしれない。
世の中っていうのは無茶苦茶なことが多いなと思う。
人が作って人が使うルールに縛られて、
マヒしてしまうことも多いかもしれない。
けど、大切にしたいと思えることは、いつも筋が通っていて、
優しいにおいがする気がする。
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