2012/12/08

時々思い出す言葉

転職して1週間がたった。
転職するたびに思いだす話がある。

10年くらい前の話。
30年もホテルで料理を作っていて、料理長までしていた人が、
体調を崩して退職して、50人くらいの昼食を作る仕事をすることになり、
一緒に調理の仕事をしながらサポートする、
という職に就いたことがあった。
30歳も年下の、しかも、料理をするのがきらいで苦手で不得意な私が。

ジョブコーチってのは、時として奇妙な制度だなと思う。
という感想は今はおいといて。
私は、この人と仕事ができたことが、今でも誰かと一緒に仕事をする時に、
特にイラッとした時に心掛けている、大切な基準になっている。
そうは、思えない時も多いのだけど。。。


当時、転職したばかりで緊張していて、
しかも慣れない厨房で働かなきゃならなくなった私に、
その人は、大量の食事を作る方法を、一つ一つ丁寧に教えてくれた。

初日、50人分のみそ汁を作った時のこと。

お湯を沸かしている間に、大根をこういう風に切って、
お湯が湧いたらダシと、青ネギの青い部分を入れてうまみを出す。
大根を入れて煮立ったら、最後にネギの白い所をいれて、
青いねぎは出して、味噌で味つけする。

その人は、私にも教えながら、テキパキとおかずも作りながら、
もたもたする私に、「お、いいね」「そうそう」「はい、今入れて」
短時間で手早く仕上げて、美味しい状態で出せるように、
声をかけてくれて、手は出さず、ダシの量から、
最後の味付けの味噌の量まで、私に任せてくれた。
ドキドキしたけど、楽しかった。

味見して、もういいだろうと思って出来上がったみそ汁は、
実際に食べてみたら、味が薄かった。

あんなに丁寧に教えてくれたのに、上手く作れなかったと思って、
がっかりした私は、「味が薄かったです、すみません」と謝った。
次回からは気をつけてと怒られるんじゃないか、と思った瞬間、
返ってきた返事は、
「少し味噌が足りなかったね。大根の切り方は、すごくいいよ。」

よし、明日も、みそ汁作るの、がんばろうと思った。

それから約1か月、週に2~3回、一緒に厨房で働いた。
みそ汁作りに慣れてきたら、今度は、ムニエルの魚の下ごしらえ、
付け合わせの味付け、盛り付けなど、少しずつ出来ることが増えて、
気が付かない間に、テキパキと動けるようになっていた。
怒られたことは一度もなく、むしろ、私は料理が得意なんじゃないか、
と勘違いするくらい、誉めてくれた。

ある時、その人に、
「私は出来ない事も多いのに、
どうしていつも私を誉めてくれるんですか?」
と、聞いてみた。

そうしたら、返ってきた返事は、
『私は、人の悪い所は探さなくてもすぐに見つかってしまう。
悪い所を10個見つけるのは簡単だけど、
人の良い所を3つ見つけるのは難しい。
だから、人のいい所を探して伝えるようにしてる。
いい所は、すぐに見えなくなっちゃうからね。』

この人が上司だったら、ずっと料理人として働ける、と思った。
今でも、決して、料理が好きというわけではないのだけど。

非難されたとか、怒られたという感覚も持たずに仕事を覚えられる。
言葉は少なくても、的確にすることを伝えてくれて、
自分で、次はこうしようと思えるような声をかけてくれて、
少しずつ仕事を身につけていくのを見守ってくれる上司でもあり、
ずっと一緒に働きたいと思える同僚。

それは、努力し続けている結果だということ。
そんな人が世の中にいるんだと、思って感動した。

その人とは、それから会うたびに、いろんな話をした。
仕事で夕食作りをしなければならない時には、
メニューや、調理方法や、買い物など、
相談にのってくれて、作りやすい料理のレシピもくれた。
父と娘のような感覚だった。

私は「スタッフ」だったので給料をもらえ、
その人は「利用者」だったので、お金を払って来ていた。
給料泥棒をしているようで心苦しく感じて仕事を辞めたのも、
当然な流れのような気がするし、
辞めないで働き続けていたら、もっと楽しいこともあったかもしれない。

世の中っていうのは無茶苦茶なことが多いなと思う。
人が作って人が使うルールに縛られて、
マヒしてしまうことも多いかもしれない。
けど、大切にしたいと思えることは、いつも筋が通っていて、
優しいにおいがする気がする。

0 件のコメント:

コメントを投稿